このシリーズ、今回で切り上げようと思いますけど、今回はテクニカルな視点で展開してみたいと思います。

自己整髪のメリットは、自分のイメージ通りのヘアカットが出来るということ。上手い下手は当然ありますが、回数をこなすにつれて、自然とテクニックが向上していく面白さもメリットの一つとしてあげていいでしょう。

コストパフォーマンスに優れている点については、前回述べましたね。

自分の都合の良い時間に取り掛かれる点も良いです。
なんだかんだ言っても、散髪に行くとなると休日の時間の大半が奪われることになってしまいますから。

それと…理髪店の方々には大変申し訳ないけど、コロナ流行下の濃厚接触が避けられることも挙げられます。

一方デメリットは、準備も後片付けも全部自分でやらなければならない。これはセルフだから当然ですよね。

途中で来客があっても出られない。
やりかけの頭のまま人前に出れないし、僕はパンツ一丁でやってるので、ますます出れない。

まずはシャンプーから入って、カットをして、またシャンプーをやって、ブローして…という理髪店の工程にこだわる人は、これをセルフで再現するとなるとかなり面倒くさいので、やはり人に任せた方がいいです。

そして…

デメリットの中で一番の難題が、技術やスキルの問題だと思います。
不器用だと自覚がある人は、まずやめたほうがいいです。
仮に器用だったとしても、失敗を容認できない完璧主義の人は、やはりやめた方がいいです。

セルフカットをモノにするということは、おのれの頭にハゲの牙城を築き上げることに他なりません。

バリカン付属のアタッチメントを装着すれば、そうそう簡単にハゲたりはしないのですが、人はもう少し何とかしたいという欲求が芽生えると、よせばいいのにアタッチメントを外して、高度な調髪に挑むという暴挙に出ます。

アタッチメントを外して、バリカンの歯を露出すると刈り上げやツーブロックなど細かい作業にトライ出来ます。こうした動画がYouTubeに多くアップされています。しかしよほど前衛的な若者以外、これをやらんほうがよろしい。

外を出歩けなくなる。

あまり披露したくないのですが、僕の例を挙げておきます。

あれは、襟足の部分にちょっと刈り込みを入れようと、アタッチメントを外して、控え目に処理を行った後のことでした。たぶん、調髪後に入るお風呂のスイッチを入れ忘れていて、一旦鏡の前から席を外して再び席に戻り、さて今度は前髪をやるぞ、と勢いよくバリカンを、額から頭頂部に向けて刈り込んだ時のことでした。

僕の頭頂部から想定外の量の毛髪がファサっと、膝の上に落ちてきました。次の瞬間、鏡に映った僕の頭は、アイスラッガー投てき後の、ウルトラセブンのようになっていました。

アタッチメントを外したままだった…。

それで僕はその後どうしたのかというと、実は全然記憶がないんです。どうしても思い出せない。
主人公が自身のトラウマから逃避するために記憶を失くす、こういうタイプの記憶喪失を小説か何かで読んだことがあります。どうもそれらしい。

その間僕は、無断欠勤もせず、ちゃんと自宅の布団で寝て、風呂にも入っていたらしい。職場ではというと、どうにかカムフラージュ出来ていたのか、それとも「いやぁ、失敗しちゃってさぁ」とあっぴろげに笑いを取っていたのか…、その辺はちょっと思い出せない。あの頃の状況を誰かに訊く勇気もない。

とにかく僕は今日まで、セルフでやってきています。

ある日、どこかの理髪店の親父と親しくなってそれが終わるのか、一生このままなのか、と時々一人で考えます。

静かに時は流れていきます。