11月16日朝の空腹時血糖値は128mg/dlでした。

マリには野良の彼氏がいるんですよ。
最近彼氏が我が家の庭でストーカー化してうろつき回り、妻はおめでたい性格をしてるもんでその姿を見ては「あの子も飼えないかしら」とか言っていた。
でもあの猫は全然側に寄ってこないし、たぶん別の目的でやってきているんだろう、と疑り深い僕は考えていた。
その日、マリの行動は落ち着きなく、しきりと鳴き声が聞かれた。
無邪気に遊ぶリンクを尻目に、マリはあいつを呼び寄せていたんです。
『私を拐って連れて行って』
マリは妻の隙をついて、二匹で駆け落ちしました。ダスティン・ホフマンの「卒業」ばりのあざやかな逃走劇でした。

実はまだ帰っていないんです。
リンクはケージで寝ています。
「お腹が空いたら帰ってくるさ」と妻に気休めを言ってはいるんですが、帰ってこないような気がします。
住宅街には野良猫のネットワークというものがあって、成猫ならそこで生き延びることも可能かもしれません。
赤ちゃん(リンク)をウチに預けて出ていったのかもしれないんです。
マリちゃんは初めからそんな感じがしていると思っていた。
美猫だし、人間でいうと、遊んでいるタイプ。
でももし彼女が帰ってきたら、妻の対応はたぶんこうなると思う。
強制的に入浴、徹底的に洗浄、ハウスドライヤーで乾燥、動物病院へ搬送、避妊手術。マイクロチップ埋没。
まぁ、これは確実だろうね。「女の敵は女」って言うし、そういう意味では容赦ないだろうね。
夜の9時を過ぎても、マリの姿はない。
妻はスマホで「猫 家出 戻ってくる」とか「猫 脱走 対処法」とか検索しまくっている。僕は何もしない。
妻が一匹の猫を抱いて帰ってきた。
白黒猫だが何か違う。大人しいけど、模様が違うし首輪も付けてる。
「他所の飼い猫だろ?」
夜の住宅街を二人で飼い主宅へ返しに行く。
リンクはケージの中で、まるで何事もないかのようにスヤスヤ眠っている。母親がいないことにまだ気づいていないのか、それとも猫なりに達観しているのか。
「お母さん、どこ行っちゃったんだろうね」
妻がケージ越しにリンクに話しかけている。
僕としては、マリが帰ってきてくれさえすれば、妻が宣言した「徹底的な処置」も必要悪だと思う。自由と引き換えに、安全を手に入れるってことだ。
マリは知ってか知らずか、帰ってこない。
彼女は今頃、野良の彼氏と一緒に月でも眺めているのだろうか。
「自由って、こんなに気持ちいいものだったのね」なんて。
結局、マリは帰ってこなかった。
妻は諦めて寝室に入ったけど、たぶん眠れてないと思う。時々ため息が聞こえる。
僕はベッドで横になりながら、人工内耳を着けて窓の方に耳を澄ませている。
ひょっとしたら、今にも「ニャー」って声が聞こえるんじゃないかって。
でも、聞こえるのは深夜の静けさだけだった。
PS.マリは無事に帰ってきました。ネズミの死骸を咥えて。
お土産のつもりらしい。
来週火曜日に避妊手術の予定てす。