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テレビに帰ってきた男

テレビに帰ってきた男

10月11日夜勤明けの空腹時血糖値は97mg/dlだった。

 

長いこと、眠らせていた機械がある。

ハードディスクレコーダーだ。

かつては毎日のように働いていたが、いつの間にか用済みになり、部屋の片隅で埃をかぶっていた。

別に壊れたわけじゃない。

俺がテレビを見なくなっただけだ。

最近、ふと思い立って、そいつにアンテナをつないでみた。

パソコンの画面に番組表が現れた。

懐かしい光景だった。

番組を選んでクリックする。それだけで予約が完了する。あとは機械が勝手に録画してくれる。

便利な時代になったものだ。

いや、昔からそういう機械だった。

俺が忘れていただけだ。

ここ数年、俺の娯楽はもっぱらYouTubeだった。

見たいものを探して、クリックする。気に入らなければ次へ行く。

それで何の不自由もなかった。

テレビなんて、もう必要ないと思っていた。

ところが、久しぶりにテレビを見てみると、これが案外面白い。

画面に出てくる若いタレントの半分以上は、顔も名前も知らない。

知らない男が笑い、知らない女が騒いでいる。

時代は確実に流れていた。

俺だけを置き去りにして。

もっとも、俺は昔からバラエティー番組というものが苦手だった。

大勢でキャッキャッと騒いでいるのを見ると、どうにも落ち着かない。

根が暗いのだ。

自覚はある。

今さら治すつもりもない。

そんな俺が録画するのは、もっぱらアニメだ。

毎週30分ずつ放送されるやつである。

ただし、放送されたからといって、すぐには見ない。

録画する。

翌週も録画する。

その次も録画する。

20話、30話とたまったところで、ようやく腰を上げる。

そして一気に見る。

これがいい。

一週間おきに見ていると、前回の話を忘れてしまう。

登場人物が何を企んでいたのか、誰が誰を裏切ったのか。

さっぱり分からなくなる。

年齢のせいかもしれない。

認めたくはないが、事実は事実だ。

ところが、続けて見ていると話がつながる。

人間関係も見えてくる。

気がつけば、何時間も画面を眺めている。

昔からそういう見方をしていた。

どうやら、古い習慣まで一緒に目を覚ましたらしい。

今、録画しているのは『鬼滅の刃』の再放送だ。

それから、ゾンビもののアニメも一本ある。

題名は、よく覚えていない。

どんな物語なのかも知らない。

それでも録画している。

俺はゾンビものが好きなのだ。

理由を聞かれても困る。

死んだ人間が起き上がって、生きている人間を追い回す。

考えてみれば、ずいぶん迷惑な話だ。

だが、嫌いじゃない。

以前、『ゾン100』というアニメを見た。

平凡なサラリーマンが、ある朝、ゾンビだらけになった世界に放り出される話だ。

普通なら絶望するところだろう。

ところが、そいつは会社に行かなくて済むと喜ぶ。

なかなか見上げた男だった。

あれは面白かった。

見ながら、昔読んだ『ドラゴンヘッド』という漫画を思い出した。

もちろん、あちらにゾンビは出てこない。

だが、ある日突然、当たり前だった世界が崩れ去る。

「ゾン100」よりもっと悲壮だし、救いがない。

生き残った人間たちが、何が起こったのかも分からないまま、先へ進んでいく。

そういう話に、俺はどうも弱い。

世界が終わる話を、わざわざ録画して楽しみにしている。

我ながら、妙な男だと思う。

ほかにも、第一話から始まるアニメを二つ、三つ予約している。

内容は知らない。

評判も調べていない。

面白いかどうかは、見てから決めればいい。

つまらなければ、それまでだ。

録画を消せば済む。

人生もそれくらい簡単にやり直せればいいのだが、残念ながら、そういう機能はついていない。

こうして俺は、久しぶりにテレビの世界へ帰ってきた。

YouTubeも悪くない。

むしろ、ずいぶん世話になっている。

だが、テレビにはテレビの面白さがある。

何が違うのか。

番組の作り方なのか、それとも見る側の気分なのか。

うまく説明できない。

ただ、違うということだけは分かる。

バラエティーが好きな人間もいれば、歌番組を楽しむ人間もいる。

ドラマ、ドキュメンタリー、アニメ。

世の中には、いろいろな楽しみ方がある。

俺は俺のやり方で楽しめばいい。

もっとも、最近は録画予約が増えすぎて、少々厄介なことになっている。

次から次へと番組がたまっていく。

見る時間が追いつかない。

まるで仕事を抱え込んだような気分だ。

娯楽のために、仕事を増やしてどうする。

まあ、いい。

今夜もレコーダーは黙々と働いている。

俺が眠っている間にも、世界のどこかで鬼が暴れ、ゾンビが街を徘徊している。

そして明日の朝には、そのすべてがハードディスクに収まっている。

平和なものだ。

少なくとも、俺の部屋だけは。

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