僕の仕事は人の世話です。
「人の世話」って言い方はないだろ…と、自分でも思うんですが、周囲に迷惑が掛かるとか考えると萎縮してブログが書きにくくなるんで、とにかく悪事を働いていないことは明言しておきます。職業不詳ということで、ご了解願います。
もうずっと週末に夜勤が入ってくるローテーションで、土曜の夕方には、日勤スタッフから申し送りを受ける段取りになっています。
僕は難聴者で、難聴者にも色々と区分があるんですが、軽度、中等度、高度、重度という具合に、障害程度が重くなっていきます。
僕は重度の聴覚障害者で、専用の補聴器なしではほとんど聞えません。「専用の補聴器」っていうのは、重度難聴用の補聴器で、僕が普段使っているものを、健聴であるあなたの耳にセットすると、まず間違いなく嘔吐するか頭痛がするか、精神に異常をきたしてくるかだと思います。それくらいヤバいバーニングサウンドが出てくるツールです。
実はそれを装着していても、情報量として不十分で、僕の場合、相手の口の動きを読むという、合わせ技が必要です。また、コミュニケーションがマンツーマンであるということ。スピーカーを経由しないこと。逆光下でないこと…など、厄介な壁を幾つもクリアする必要があります。
現在の職場では元々マスク着用率が高かったんですが、ここのところコロナウィルスの蔓延で、ほぼ100%の着用率なんで、もうコミュニケーションが大変です。いや、コミュニケーションなんてもんじゃない、職場での経験則や聴覚以外の感覚をフル動員して事態を推測するなど、もう超能力の世界です。
こんな苦労を抱えていても、実は案外未来に対して楽観的でいて、むしろ楽しみにしているフシがあります。その理由はIT技術の革新があります。
難聴者は音を聞くことを諦めているわけではなく、貪欲な人が多いと思います。結果として聞こえないだけで、 当人は聴覚のプロセスを常に模索しています。
僕はインターネットの世界に触れてから、ずっと音声文字変換の技術に注目していました。
十年前くらいの僕はというと、ドラゴンスピーチやアミボイスといった音声認識ソフトに入れ込んでいて、パソコンで文書作成したりアフィリエイトの記事を書いたりしていました。僕はやらなかったけれども、こういった技術はチャットとかにも重宝されていたようです。
しかし、これを実際の職場で生かすのは、到底無理がありました。僕がデスクワークをやっている人間だったら使えたかもしれませんが、ケアワークには全然使えない。機動性がないし、どうしても生身の人間を相手にしているというより、機械のオペレーションをやってるというスタンスに終始してしまいます。
意識が対象(クライアント)に向かわないんですよ。
そんなわけで、職場で使うのば諦めていたんですが、プライベートで文章を書く時には、音声入力を使っていました。執筆意欲がある時は、タイピングでスラスラ書けますけど、書く気がないのに書かなきゃならない時には、テーマに合わせて適当に喋っているだけで、文章が書き上がっていきます。もちろん所々修正は必要ですけれど。
音声文字入力では、Google音声入力がお気に入りでした。僕は聴覚障害者なんで、たぶん滑舌が悪いだろうな…と日頃から思っていたんですが、 Google音声入力は割としっかり認識してくれました。スマートフォンの時代になると、僕の手がデカすぎて、タッチパネルのキーボードではストレスが溜まるため、やはり音声入力は不可欠でした。
そんな中、Google音声変換というアプリに出会いました。半年前のことです。
どうせまた使えないだろう…という先入観があったこともありますが、アプリを起動して、軽い感動を覚えました。
文字がスラスラ出てくる。
スマホの画面に自分の喋った言葉が、ほとんどタイムラグを感じさせずに、流れていきます。
変換精度はひどいものでしたが、とにかくリアルタイムで情報が流れていく。
これだと意識が対象に集中したまま、情報がインプットされます。
変換精度がひどい…と書きましたけど、実際はこんなところです。
「痛みが聞いたらチクチクしとっては変わらんって○○さん、昨日日勤帯でもずっととく子の方があってたんですけど夜間帯に入っても読後活発でお風呂尿の方ですね一方20時に出資薬と飲まれてるんですけどもそれでも静かにならずに」
以下がこれを僕が修正したものです。
「痛みを聞いたらチクチクしてて変わらないって。○○さん、昨日日勤帯でもずっと独語の方があってたんですけど、夜勤帯に入っても独語活発で、ブロバリンの方ですね。一包20時に就寝薬と飲まれてるんですけども、それでも静かにならずに」
まあ、僕自身が判読できれば良い訳ですから、これくらいのレベルでも問題ありません。
(…当たり前のことだけど、書けば書くほど素性が知れていくなぁ…)
今のところ、このアプリを使って、マンツーマンの打ち合わせに使っていますが、相手がマスクをしていても、スマホの画面をチェックすれば、聞き返すことなく話の内容を把握出来るので助かっています。タイムラグがほとんどないというのは、話の途中で疑問点を指摘するのに、大きなアドバンテージとなります。話し手は案外自分自身の発言を覚えていないものです。即時に質問しないと、焦点をはぐらかされてしまいます。
出来れば特定の分野毎の辞書機能などを搭載し、単語登録も出来ればいいのですが、もうそれもすぐに実現するでしょう。
あと贅沢を言わせてもらえるなら、現状でマンツーマンの会話には有効ですが、複人数の発言者の言葉を拾うのは無理です。5Gの時代になったんだし、その辺の取り組みにも期待したいと思います。
それと邦画を鑑賞する際に、このアプリが活用出来ればいいんですけど、映画の盗撮や上映時のスマホ使用などマナーや法的な問題も絡んできますし、技術的な面からもスピーカー音が拾えない、爆音のアクションシーンの中でどうセリフを判別するかなど、課題は山積みだと思います。
そんなわけで、仕事の申し送りには、google音声変換のサポートに助けられながら、業務に勤しんでいるわけですが、今ではもう手放せないくらい重宝しています。
人生はチョコレートの箱。開けてみるまで中身は分からない。
長生きはしてみるもんです。