夜勤の業務が一段落した深夜帯…。パートナーと少し話をしたりします。そのパートナーと気が合えばの話ですが。
まぁパートナーといっても、色んな人がいるもんで、仕事熱心な人、ペット中心の生活を送っている人、最近離婚した人、パチンコ狂、ゲームオタクetc、本当に色々いるもんです。その都度、話のテーマが変わるのですが、まぁ大体最後は健康に関する話題に落ち着きます。
その日の相方は同世代の女性で、スレンダーで身のこなしが軽く仕事もテキパキできる人でした。
その相方と僕との共通点は、だいぶ昔にタバコを辞めたことで、そのやめた後のお互いの健康に関する話を延々とするわけです。
概ね、健康状態は上向きになった。疲れにくくなったなどと、お互いやめて良かったねなどと自画自賛していたんですが、どうも話が飲酒習慣に足を突っ込んだあたりから、雲行きが怪しくなってきた。
飲酒に話を振ってきたのは向こうで、僕はどっちかというと、その話は避けたかったんだけど、向こうはどうしても酒の話をしたかったらしい。
毎日、缶チューハイを一缶飲む女性で、氷〇ストロングというチューハイの大ファンだそうだ。
「でもさぁ…ストロング系って、依存症になりやすいって聞いているんだけど…」僕は日頃から「断酒道」などの健康動画をよく観ているので、そっちの知識もけっこうあるのです。
「アルコール9%もあると、けっこう頭にくるらしいんだよな。それでネットでは色々と警告する記事が載ってるんだけど」
「でもあれ、おいしいわよ。それに一缶しか飲まないし…」と彼女は言います。
僕も経験者だから知っているんだけど、一缶しか飲まないって言うんですね。一杯しか飲まない。一本しか飲まない。一合しか飲まない。どんなに部屋の中に缶や紙パックがすっ転がっていても、そう言うんです。
「○○さん(職場のお偉いさん)が言ってたけど、ワインだったら身体に良いらしいんだよね。ワインの成分が血管に良いんだって」
ポリフェノール…ね。ええと、あの人結構太ってたよね。近頃ちっとも歩かないし、デスクにいることが多いよね。
「やっぱりさぁ、こういう夜勤明けとか、家に帰ってクーッと一杯飲むと、ああ生きてるって思うじゃない」
いや、飲まなくてもそう思うし、思わない時もある。僕は話をさっさと切り上げたくて、きっとソワソワしていたんだと思います。彼女はこう尋ねてきました。
「やっぱり私、お酒やめたほうが良いかしら?」
僕は断酒に関する勉強を結構してたんですけど、勉強してて良かったです。断酒をしているなら、他人に断酒を勧めてはいけません。より強く飲酒を意識するからです。これは鉄則です。僕はこの時こう答えました。
「あなたがお酒を好きなのは、結構なこと。お酒はおいしいですもんね。あと2、3年この調子で飲み続けた時、あなたがどうなっているかは僕にも分らんです。ただやめるかどうかはご自分で決めてください。今はネットとかで色々情報が入ってくるから、勉強されてそれから決めれば良いじゃないですか」
彼女は神妙な表情になり、口をつぐんでしまいました。このタイミングでこの日の休憩は切り上げ、業務に戻りました。
彼女にはお酒をやめてほしいですが、それはやはり彼女自身が自分で決心しないとどうにもなりません。
そんなことよりも彼女は僕にスリップ(再飲酒)のトラップを仕掛けていたのです。彼女は意図していないかもしれませんが、夜勤明けにイオンの酒コーナーに差し掛かった時、「やっぱりさぁ、こういう夜勤明けとか、家に帰ってクーッと一杯飲むと、ああ生きてるって思うじゃない」 というフレーズがどこかから流れてきたら、どうなると思います。
これは悪魔のささやきでした。あぶない、あぶない。